
近藤 清虹 静夜思(せいやし) 李白
牀前(しょうぜん)月光(げっこう)を看(み)る 疑(うたが)うらくは是(これ)地上(ちじょう)の霜(しも)かと 頭(こうべ)を挙(あ)げて山月(さんげつ)を望(のぞ)み 頭(こうべ)を低(た)れて故郷(こきょう)を思(おも)う

野田 香彩 人の気持ちはめぐる季節の移ろいに立て直されていく 最後の楽園より-星野道夫-
もう一度あの頃の自分に戻れないか、とも思ったのです。つまり、目の前からスーッとこれまでの地図が消え、磁石(じしゃく)も羅針盤(らしんばん)も見つからず、とにかく船だけは出さなければという あの頃の突き動かされるような熱い想いです。そしてたどり着くべき港さえわからない新しい旅です。
何でもない風景なのに、これはいつか必ずたまらない懐(なつか)しさで思い出す、と感じるときはないだろうか、それは風に波立つ草原であったり、岩についた不思議な苔(こけ)の色だったり、決して特別なことではないのに、記憶の底に沈殿(ちんでん)してゆくもの…。
人が旅をして、新しい土地の風景を自分のものにするためには、誰かを介在(かいざい)する必要があるのではないだろうか。どれだけ多くの国に出かけても、地球を何周しようと、私たちは世界の広さをそれだけでは感じ得ない。が、誰かと出会い、その人間を好きになった時、風景は、はじめて広がりと深さをもってくる。